お客さまは差別しろ

「お客さまは大切に考え、全員に良い接客をする」という考えには大賛成であり、私も長年にわたって実践してきました。

しかし、私は「お客さまは差別しろ」と思っています。ビジネス熱心な方であれば「パレートの法則」(上位2割のお客さまが8割の売上を占めるというもの)から考えを巡らし、「お金を持っている人を大事にし、お金のない人との差をつける」ということと考えているかもしれません。

実はこれとは違います。

結論を先に言うと、「お客さまはひとりひとり違う。しっかりと個別の対応をして、お客さまごとに差をつけよ」というものです。

さて、実は商売の基本のような言葉「お客様は神様論」と今回のテーマである「お客さまを差別せよ」は日本に商業が栄えていった江戸時代には共存していました。むしろ、「神様論」の方が一部であり、それが明治→大正→昭和→平成までどんどん幅を利かせ膨らんでいったのだと私は考えています。

サービス業に根付いている「お客様は神様」という考えは江戸時代に生まれたとされており、それは1904年にできた日本最初の百貨店である「三越呉服店」の前身、「越後屋」の200年以上伝承されてきたとされる見習の心得を体系化したことから生まれたものです。1908年にまとめられたこの冊子は「三越小僧読本」として店員精神や商人精神を徹底的に叩き込むための10か条からなるものでした。

その一部を現代語訳したものがこれです。

「そもそも顧客本位というものは、お客様を神様とし、お客様の無理を道理とすることである」

この「読本」はいわば、日本初のマニュアルとでもいえるもので、興味がある方は、関連した書籍が出ていますので探すと良いかもしれません。

「お客様は神様」とはいわば、「全てのお客さまは公平に扱え」という精神で、市場が拡大し、景気や賃金が上昇し、いわゆる中間層と呼ばれる層が増えていき、チェーン店が増え、人口も増えていた時代には画一的に接客サービスを行えるものとして大変重宝され、そのため、昭和と平成の時代で「お客様は神様」が完成形を迎えたのではないでしょうか。

しかし、この「お客様は神様」という精神は裏を返せば「その人がどんな人かは関係なく、同じように対応する」というチェーン店のマニュアルのはしりとも言えるのではないでしょうか。

しかし、市場が成熟化し、景気が低迷しながらも、顧客の意識も成熟化している今の日本では、「お客さまを公平に扱う」ことは個人を見ずに、顧客全体としてとらえることになります。だからこそ、お客さまに差をつけた「個別対応」できる会社が生き残る時代になっていきます。

ここからは個別に扱うこと、「お客さまを差別しろ」とは具体的にはどのようなものかを考えていきましょう。こちらも昔の呉服屋さんを例にサービス業の原点について考えてみるとわかりやすいでしょう。

個別対応を行うような昔の呉服店はお客さまのタンスの中身を全部知っていました。去年買ってもらった着物にあう帯を仕入れ、直接自宅に持っていき、着なくなった着物を下取ることは当たり前。それだけでなく、自宅に直接行くことにより、生活環境の変化にも柔軟に対応し、どこに家族で旅行にいったか、どんなイベントがあるのかまで把握し、新しい着物などの提案をすることは当たり前でした。

これは今の店舗型商売、そして富裕層向けの商売にも通じるところがあるばかりか、インターネットが流通した今だからこそ「リアルの強み」として活かせるヒントになるでしょう。

余談ではありますが、「定価」があることも実は疑わないといけないことかもしれません。値段を統一するということも、顧客全体を同じものとして見ている仕組みのひとつです。

「お客さまは差別しろ」とは少々刺激的な言い回しではありますが、サービス業に関わっている人からすればどんなお客さまも同じように扱うという感情のないマニュアルの方が抵抗があるに違いなく、画一化された対応は生き残れないということを知らなくてはいけないでしょう。

 

お客様は神様=チェーン店、さばききれないくらいお客さまがいる状態の画一的な考え方

お客さまを差別しろ=個人店、ひとりひとりに対応する顧客単位型差別化の考え方

 

これを知れば、いつも行くお店や店員さん、そしてライバルがどのように対応しているかに意識がいきますね。ネットとリアルではリアルが強いと私は考えています。しかし、リアル代表である「人」が機械のような対応をしていては意味がありません。

さあ、今回のテーマを自分のビジネスに置き換えて実践してください。ひとつ上のレベルに行けると思います。また気づきや結果報告があればコメントくださいね。

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