「石の上にも3年」は、経営では危ない言葉です ――ブレてはいけないのは「やり方」ではなく「目的」です
PodcastとYoutubeで、リスナーの方から来た質問にお答えする形でそれぞれ台本なしの経営トークを展開していますが、こちらでは並行して連携をしたコラムをまとめます。
フリートークでわかりにくいことなど文字にまとめて読みやすいようにしていますのでこちらも経営の参考にしてください。
「迫田社長、いつもポッドキャストで勉強させてもらっています。私は経営者ではありませんが、将来独立しようと考えている28歳の会社員です。私の勤める会社の社長は、一度決めた目標や新規事業を、突然やめたり方向転換したりします。『石の上にも3年』と言われるように、経営者はブレずに決めたことをやり遂げることが必要だと私は思います。このままで会社は大丈夫なのか、不安に思っています。今後独立したときの考え方として教えてほしいです。経営者にとって、やりきる力は必要ではないのですか?」
28歳で「石の上にも3年」。古き良き考え方で、とても面白いご質問です。
先に結論を申し上げます。
会社の規模にもよりますが、この社長は、おそらく正しいです。
ただし、ご相談者の方が感じている不安や不信感も、実は正しいと思っています。
順番にお話しします。
コロコロ変わる社長は、「損切り」がうまい社長でもあります
社員の方から見れば、「この事業を死ぬ気でやるぞ」と言っていた社長が、数ヶ月後に「やっぱりやめた」と言い出す。
不安になるのは当然だと思います。
ですが、見方を変えると、コロコロと方針を転換する社長というのは、損切りがうまく、経営判断が早い優秀な経営者とも言えます。
むしろ、「石の上にも3年」と決めた事業を何が何でもやりきる、という考え方の方が、経営としては危うい場面が多いのです。
ダメだと分かっていても、なんとかやりきろうとしてしまうからです。
「サンクコスト」という罠
ここで知っておいていただきたいのが、サンクコスト(埋没費用)です。
サンクコストは、もうすでに使ってしまい、二度と返ってこない費用です。
昨日までに使った費用は、これから何をしても返ってきませんが、
「もうこれだけ使ったのだから、取り返さないといけない」
という気持ちが働いてしまう。これがサンクコストの罠です。
よく例に出されるのが、映画館の話です。
たとえば、あなたが1,800円で映画のチケットを買ったとします。
上映が始まって10分、まったく面白くない。この先も絶対に面白くならないと確信したとします。
残りはおよそ110分です。
席を立って出るか、払ってしまった1,800円がもったいないから最後まで観るか。
ほとんどの方は、最後まで観ることを選ぶと思います。
それは、「もしかしたら、この後いい展開があるかもしれない」と思ってしまうからです。
ですが、1,800円は観ても観なくても、もう払ってしまったお金です。
おそらく、このご相談者の会社の社長は、10分で席を立つタイプです。
つまらない110分を過ごすくらいなら、
取引先に挨拶に行く。
部長や課長に指示を出す。
そちらの方が、はるかに価値があるからです。
事業もまったく同じです。
「この後いい展開があるかもしれない」と思ってしまう。
この社長は、
「これは損をする」と思ったらすぐに切る。
「流れが違う」と思ったらすぐにやめる。
それができるということは、会社にちゃんと利益が出ている可能性が高いと思います。
「売上は出た」という、成功の演出
一方で、社長の中には、自分の判断ミスを認めたくない人もいます。
無能だと思われたくないので、なんとか「成功した」という形だけを取りたいのです。
たとえば、ある事業に5,000万円を投じたとします。
これはもう返ってこないサンクコストです。
結果、売上は5,000万円、利益は500万円でした。
投じたお金はまったく回収できていません。
それでも、「売上を5,000万円まで伸ばした。この事業はここまでうまくいった」と、よく分からない理屈で社内に成功として伝える。
嘘も方便ではありませんが、そうやって自分の判断は間違っていなかったと押し通す。
コロコロ方針を変える社長よりも、こちらの方がよほど危ないと思います。
「いい経験になった」は、300円で買えます
もっと身近な例で言えば、飲食店のズルズル経営がそうです。
傍から見れば、素人の方でも「このタイプのお店は続かないよね」と分かるお店があります。
それでもオーナー本人は、好きだから続ける。
そして3年やる。
Instagramでもよく見かけると思います。
「閉店のお知らせ」
〇〇を頑張りましたが、こういう結果になりました
と。
そして、しっかり赤字を出したオーナーは、こう言います。
「良い経験になった」「良い勉強になった」
本当にリアルな話をしますが、その経験は、ブックオフで300円の本を買えば3日ほどで学べてしまいます。
失敗は失敗なのです。
赤字になってやめたことに、良い経験も何もありません。
問題は、どこで損切りするかです。
損切りできないまま、うまくいかないやり方を続けてしまう。
それは「石の上にも3年」の、ダメなパターンです。
もし最初の半年で見切りをつけていれば、残りの2年半と、そこで失ったお金を、次の事業に使えていたはずです。
ブレてはいけないのは「やり方」ではなく「目的」です
では、やりきる力は必要ないのか。
必要です。絶対に必要です。
矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、これはきちんと言葉にできます。
ダメな経営者は、やり方(手段や個別の事業)に対して、ブレずにやりきろうとします。
良い経営者は、会社のビジョンや理念、目的に対して、ブレずにやりきろうとします。
ここが大きな違いです。
目的や理念がブレていないからこそ、個別の事業をやめることは、社長にとって何も難しい判断ではないのです。
たとえば、「お客様に誠実であること」という理念を持つ会社があるとします。
その理念を曲げて、「不誠実でもいいから、とにかくお金を稼げ」と変えたのであれば、それは話が違います。
ですが、誠実であるという軸はまったくブレていない中で、「この新規事業は儲からないからやめる」「目標をこう変える」というのは、自由です。
経営者は、「この会社を絶対に成長させる」という目的に対しては、執念に近いものを持って、3年、5年、10年とブレずに座り続けられる。
だからこそ、事業ややり方には固執せず、どんどん切り替えていけるのです。
社員の方から見れば、朝言ったことが夕方には変わっている、「朝令暮改」に見えるかもしれません。
ですが、目的さえブレていなければ、やり方はそれくらいのスピードで変えていいと私は思っています。
私がオーストラリアにいた頃、かつて『マネーの虎』に出演されていた、古本屋「ほんだらけ」の樋口会長と知り合い、お話しさせていただいたことがあります。
そのとき、「経営者は朝令”朝”改でいいんだ」とおっしゃっていました。
夕方まで待っていたら間に合わない。
朝言ったことでも、その場で「やっぱりやめよう」でいい。
ブレない理念と目的があるからこそ、やり方はどんどん変化させていける。
それが、経営者にとって大事なことです。
ただし、社員の不信感は正しいです
ここまで社長側の話をしてきましたが、ご相談者の方の不安や不満は、間違っていません。
もしこの会社の社員数が100人以下だとしたら、社長の「ブレない目的」が社員に伝わっていないこと自体が、おかしいのです。
それは社長の問題です。
伝えられていないものを、社員に「分かれ」と言うのは難しいと思います。
一方で、200人、300人といった規模の会社であれば、社長が直接すべての社員に伝えることはできません。
役員から部長へ、部長から課長へと、きちんと伝言ゲームがされていく必要があります。
もしそういう規模の会社で、社長がきちんと伝えているにもかかわらず、それが現場に届いていないのだとしたら。
途中で伝言ゲームを止めている人がいる可能性があります。
つまり、「社長はバカだ」ということにしておいた方が都合のいい人がいる、ということです。
少し政治的な匂いもあるかもしれません。
そこは冷静に見ておいた方がいいと思います。
独立を考えるなら、今の会社は最高の教材です
ご相談者の方は、将来の独立を考えているとのことでした。
だとすれば、今の環境は、実はとても良い教材です。
「この事業は成功するだろうな」と思ったものが、本当に成功したか。
「これはやめた方がいいな」と思ったものを、社長が本当にやめたか。
会社の売上を見ながら、自分が社長と同じ判断ができているかどうかを確かめてみてください。
もし会社が大赤字の中で、社長が必死に方向転換を繰り返しているのであれば、それはそれでタフな社長です。
ですが、その場合は考え方が社員にも伝わっているはずです。
おそらくこの会社は、ある程度黒字で安定していて、次の時代に向けた事業を探して、手段をどんどん変えている状態なのだと思います。
会社として安定しているのであれば、心配はいりません。
まとめると
社長が会社を良くしようとしているのは、当たり前のことです。
この社長は、目的に対してはブレずに、その中で手段をどんどん変えているだけなのだと思います。
社長の言葉や事業の変化だけを追うのではなく、その奥にある理念や目的、社長の考えを掴むようにしてみてください。
見え方が大きく変わるはずです。
そして、今まさにビジネスをされている方にも、ひとつ考えていただきたいことがあります。
「やり続ける美学」が、実は決断の先延ばしや、逃げになっていないか。
石の上に座り続けるべきなのは、やり方ではなく、目的の方です。
今回は、経営者の「やりきる力」と損切りについてのお話でした。
現在、私はYoutube、Podcastにて番組を行っています。
そこでは、リスナーさんからの質問にお答えする形で少し泥臭い経営論を台本なしで展開しています。
よろしければそちらもご確認いただければ幸いです。
それでは次のコラムでお会いしましょう。
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