エースを課長にしたら、営業をやめてくれません ――「役職」の渡し方を、そもそも間違えているかもしれません
PodcastとYoutubeで、リスナーの方から来た質問にお答えする形でそれぞれ台本なしの経営トークを展開していますが、こちらでは並行して連携をしたコラムをまとめます。
フリートークでわかりにくいことなど文字にまとめて読みやすいようにしていますのでこちらも経営の参考にしてください。
「社内で最も営業成績が良かったエース社員を、評価して『課長』に昇進させました。しかし、彼は部下のマネジメントや教育を全くやらず、相変わらず自分ひとりで営業に出て数字を作ってばかりいます。『部下を育てるのが管理職の仕事だ』と注意しても、『自分で売ったほうが早いし確実です』と言って聞きません。どうすれば彼に管理職としての自覚を持たせられますか?」
これは、本人の自覚が足りないという話ではないと思います。
そもそも、日本の多くの会社における「役職の渡し方」そのものに、構造的な原因があるというのが正直なところです。
日本と海外では、役職の付き方が違います
海外の組織運営では、先に「役割(ポジション)」が明確に定義されていて、そこに合う人を選んで配置する、という順番が基本です。
マネージャーという役割には、マネジメントという明確な職務内容があり、その職務を遂行できる人がその席に座ります。
一方、日本の多くの会社では、役職は「頑張ったご褒美」として渡されます。
営業成績が一番良かった人に、感謝と評価の意味を込めて「課長」という肩書きを与える。
これは人事として自然な発想ですが、実際には「営業で成果を出す」という能力と、「人を育て、チームを動かす」という能力を、まったく別のものとして評価していないということでもあります。
彼にとって、課長は「役割の変更」ではありません
このご相談のエース社員からすると、課長という肩書きは、今までの頑張りに対する”表彰”として受け取ったものです。
仕事の中身が変わったという認識は、本人の中にほとんどありません。
だからこそ、これまで通り営業に出て、これまで通り数字を作り続けることが、彼にとっては会社への一番の貢献だと信じて疑わないのです。
「部下を育てるのが管理職の仕事だ」と伝えても響かないのは、反発しているのではなく、
そもそも役割が変わったという自覚を持つきっかけが、会社側から一度も明確に示されていないからです。
「自分で売った方が早い」は、事実として正しいです
ここも大事な点です。
彼の「自分で売ったほうが早いし確実です」という言葉は、恐らく事実です。
エースだからこそ、部下に教えるより自分でやった方が、目先の数字は間違いなく上がります。
ですので、彼の言い分を否定しても意味がありません。
個人としての生産性の高さと、管理職としての職務は、そもそも評価する軸が別だという前提に、会社側が先に立たなければいけません。
では、どうすればいいのか
精神論で「自覚を持て」と言い続けても変わりません。
仕組みとして変える必要があります。
まず、評価基準を明確に切り替えることです。
課長になった時点から、本人の個人営業成績ではなく、部下の育成状況やチーム全体の数字で評価する、という基準に変えます。
個人成績で評価され続ける限り、本人が管理職の仕事に時間を割く理由がありません。
次に、昇進のタイミングで、役割の変更をはっきり言語化することです。
「よく頑張った、課長だ」ではなく、
「あなたの仕事は、今日からチームの数字を作ることに変わる。個人の営業成績はもう評価対象ではない」と、明確に伝える必要があります。
日本的な”ご褒美人事”のまま昇進させると、本人の頭の中は昨日までとまったく変わりません。
最後に、「プレイングマネージャー」と「マネジメント専任」を、会社として区別しておくことです。
全員が管理能力を持っているわけではありません。
営業力はあっても、マネジメントに向かない人もいます。
その場合は、無理に課長という肩書きを渡すのではなく、“エース”としての評価軸(給与・役職名)を、管理職とは別に用意しておく方が、本人にとっても会社にとっても健全です。
まとめると
エース社員が管理職の自覚を持たないのは、本人の意識の問題である以前に、役職を成果のご褒美として渡してしまう、日本的な仕組みの問題です。
役職を渡す時点で評価基準を切り替え、役割の変更をはっきり言葉にする。
そして、管理に向かない人には、管理職以外の形で報いる道を用意しておく。
ここまで仕組みとして整えて初めて、「自覚を持て」という言葉が意味を持つようになります。
今回は、エース社員が管理職の自覚を持たない理由についてのお話でした。
現在、私はYoutube、Podcastにて番組を行っています。
そこでは、リスナーさんからの質問にお答えする形で少し泥臭い経営論を台本なしで展開しています。
よろしければそちらもご確認いただければ幸いです。
それでは次のコラムでお会いしましょう。
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