社長に現場を離れてもらうには、どうすればいいですか? ――「誰が悪いか」ではなく「どう設計されているか」の話です
PodcastとYoutubeで、リスナーの方から来た質問にお答えする形でそれぞれ台本なしの経営トークを展開していますが、こちらでは並行して連携をしたコラムをまとめます。
フリートークでわかりにくいことなど文字にまとめて読みやすいようにしていますのでこちらも経営の参考にしてください。
「ウチの社長は創業から10年経つ今でも、現場のトッププレイヤーとして最前線で動いています。最終的な決裁権もすべて社長が握っているため、社長の確認待ちで業務が止まることもしばしばです。社長は『お前らが育たないから俺が現場を離れられないんだ』とこぼしていますが、私たちからすれば、権限を任せてもらえないので育ちようがありません。どうすれば社長に現場を離れてもらい、会社を次のステージに進めることができるのでしょうか?」
このご相談、まず申し上げたいのは、これは社長の人柄の問題でも、社員の能力の問題でもない、ということです。
社長が「資本家」としての自分と「経営者」としての自分を混同してしまっている
という話です。
資本家と経営者は、そもそも別の役割です
資本主義社会において、資本家と経営者は本来まったく別の役割です。
資本家から見れば、経営者は従業員と同じ立場にすぎません。
資本家は資金を出し、その資金を経営者に預けて運用してもらう。
うまく増やしてもらえるなら任せる、というのが本来の構造です。
日本の中小企業の多くはオーナー社長、つまり自分自身が資本家であり、同時に経営者でもあります。
だからこそ、自分が今どちらの立場で動いているのか、本人ですら分からなくなりがちです。
このご相談の社長も、まさにこの状態だと思います。
「現場のトッププレイヤーとして最前線で動いている」というのは、完全に経営者(実務者)としての自分です。
本来、資本家としての自分がやるべき仕事は、現場に立つことではなく、資金や人という資源をどう配分すれば会社が成長し、お金が一番増えるかを判断することです。
社長自身が経営者(労働者)の役回りに完全に没入してしまっているので、資本家としての判断そのものができなくなっているのです。
社長が現場を離れられない、本当の理由
経営者(実務者)としての自分が「自分が動いて現場を引っ張ろう」と考えて組織をつくると、社員は指示を待つことに慣れていきます。
指示・命令がないと動かない組織が出来上がってしまうと、当然、そこから抜けられなくなります。
社長が「お前らが育たないから」とおっしゃるのは、感覚としては分かります。
ですが順番が逆です。
育たないから権限を渡さなかったのではなく、権限を渡さなかったから育たなかったというのが、実際に起きていることです。
そしてその権限を渡せない理由をたどっていくと、社長が資本家としての判断ではなく、経営者(実務者)としての感覚で会社を見てしまっていることに行き着きます。
今、資本家としての自分を忘れ、経営者主導で動く設計になっている、というだけの話です。
ここでは「社長が悪い」「社員が悪い」という犯人探しをしても意味がありません。
多くの日本の企業がこの形になっているのでこの社長が悪いとは言えない、むしろ悲しいかな、日本全体の企業文化であるとも言えます。
社長にできること
まず、社長側にできることをお伝えします。
いきなり全部を手放さないことです。
権限委譲は「信頼できるかどうか」で判断されがちですが、実際には信頼は後からついてきます。
小さな決裁権から渡し、その結果を見て少しずつ広げていく方が、現実的で失敗が少ないです。
そしてもう一つ大事なのが、
情報の伝え方です。
社長がすべての情報を全社員に直接伝えようとすると、結局は社長がいないと物事が進まない組織のままです。
理解度100の情報を、まずは75理解できる立場の人に伝え、その人が50の人に、50の人が25の人に伝えていく。
この「段階を踏む伝わり方」自体が、社長がいなくても回る組織の土台になります。
社員にできること
一方で、社員側から出来ることもあります。
「権限をください」と直接言うだけでは、正直あまり変わりません。
まず、小さな決裁を、確認なしで実行してから報告することです。
社長が権限を渡す判断基準は、信頼というより実績です。
「聞かれる前に、やって、結果を見せる」
を積み重ねることで、社長の中に「任せても大丈夫だ」という材料が溜まっていきます。
次に、「言われたことだけを聞く」姿勢をまずやめることです。
社長が現場を離れられない一番の理由は、「自分がいないと止まる」という実感を持っているからです。
逆に言えば、社員側が「聞かなくても自分たちで回っている」状態を見せられれば、社長は自然と手放さざるを得なくなります。
説得するのではなく、そういう状態を作ってしまう方が早いです。
最後に、社長に直接伝えるときは、「不満」ではなく「提案」の形にすることです。
「権限をください」ではなく、「この業務は、確認なしで自分たちの判断で進めてもいいですか。もし違っていたらすぐ報告します。」
というように、社長がリスクを取りやすい粒度に区切って提案すると、社長側も”賭け”にならずに手放しやすくなります。
まとめると
社長が現場を離れられないのも、社員が育たないのも、どちらも「今、経営者主導で動く設計になっている」という一つの原因から起きています。
どちらか一方が変わるのを待つのではなく、社長は小さな権限から手放し、情報を段階的に伝える仕組みをつくる。
社員は実績を先に示し、提案という形で少しずつ主導権を引き受けていく。
この両方が同時に動いたとき、初めて組織は「社長がいなくても回る」状態に近づいていきます。
そしてその先で、社長がようやく取り戻せるのが、資本家としての自分です。
現場で誰よりも動く経営者ではなく、資金と人をどこに配分すれば会社が一番伸びるかを判断する資本家に戻ること。
それこそが、次のステージに進むということなのだと思います。
今回は、社長が現場を離れられない理由についてのお話でした。
現在、私はYoutube、Podcastにて番組を行っています。
そこでは、リスナーさんからの質問にお答えする形で少し泥臭い経営論を台本なしで展開しています。
よろしければそちらもご確認いただければ幸いです。
それでは次のコラムでお会いしましょう。
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